大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)452号 決定

抗告人

谷畑久一

相手方

湯川辰雄

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)、記録によれば、本件競売目的建物の現占有者小林玉子は、同物件の前所有者で同物件を現所有者(本件抵当権の設定者兼債務者)細川春子に売渡した者であるが、細川が売買代金の大部分を支払わないから同物件に対して留置権があると称して、売渡し後も同物件を細川に引き渡さず、引き続いて今日まで同物件の占有を保持している者であることを認めることができる。

そうすると、小林玉子は本件建物の賃借人ではないので、本件競売期日の公告中に賃貸借の存在およびその賃貸条件等を記載するを要しない。抗告人の主張は理由がない。

(二)、しかしながら、職権をもつて調査するに、小林玉子が細川春子に対して現在でもなお相当額の前記売買による残代金債権を有することはほぼ確実であつて、本件抵当権設定契約締結日以前から今日まで引き続いて本件建物の占有を保持していることは明白であるから、小林玉子は本件建物についてみぎ売買残代金債権を担保する留置権を有していて、みぎ留置権をもつて、本件抵当権者およびみぎ抵当権に基づく不動産競売手続の競落人に対して対抗することができる筋合である。そうすると、本件競売手続においては、裁判所は競売期日の公告中に小林玉子がみぎのような留置権を主張して本件建物を占有中であることを記載して競落人に不測の損害の生ずることを防ぐと共に、必要があれば、本件建物の鑑定価額から裁判所の相当と信ずる額を減じた額をもつて最低競売価額と定め、その旨を競売期日の公告中に掲載するのが相当である。(留置権の被担保債権額が競売目的物件の価額を超過する場合においても、留置権者自身および留置権者と交渉して安価に留置権を買い取ることができる可能性のある者にとつて、同物件は相当の価値を有するのが通常であつて、これを無価値と云うことはできない)。本件競売手続においては、原審はみぎ二つの措置のいずれも履行していないから、結局不当に高価な最低競売価額を定めてこれを競売期日の公告に記載したものとして(適法な最低競売価額の記載がないものとして)、民訴法六七二条第四、六五八条第六に違反し、原決定は取消しを免れない。

よつて、原決定を取消し、本件競落を許さないこととし、民訴法四一四条、三八六条に従い、主文のとおり決定する。

(三上修 長瀬清澄 岡部重信)

抗告の趣旨

(主文同旨につき省略す。)

抗告の理由

抗告人は前記競売物件の競落人であるところ、競落後該物件には他人が居住し賃貸借のあることを発見しました。

本件競売の公告には右事実の記載がなかつたので適法な公告がなされなかつたと言うべく、よつて抗告の趣旨記載の裁判を仰ぎたく抗告します。

(物件目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例